「かながわの障害福祉グランドデザイン」素案に対する意見

障害児者の生活と権利を守る神奈川県連絡協議会

 

神奈川県は障害者の地域生活支援をより充実強化し具体化するため、「かながわの障害福祉グランドデザイン」(以下、グランドデザイン)の策定に取り組んでおり、このほど「素案」を発表しました。

 私たち障害児者の生活と権利を守る神奈川県連絡協議会(障神奈連)は、グランドデザインの策定にあたって、現在、県内の障害者とその家族がどのような実態で暮らしているか、どのような困難を抱え、どういう生活要求を持っているのかを行政が把握し、障害者と家族の困難を軽減して要求が実現するための事業を施策化し、計画的に具体化する見通しを示すことが大切だと考えます。

 

 2003年度より支援費制度が始まりましたが、厚労省は財源削減のために突如、2004年10月に「今後における障害保健福祉のグランドデザイン」を提案、その提案に基づいて2005年2月に障害者自立支援法案が国会に上程され、10月に与党の賛成のみで障害者自立支援法が成立しました。

 この法律は、@障害者の福祉サービスや医療に「応益負担」を導入し、施設利用者には食費等の自己負担を押し付けること、A「市町村審査会」の設置や「障害程度区分」の認定による新たな支給決定の仕組みは、利用者の実態と要望に応じてサービスの量を決定するとした現行の支援費制度から大きく後退すること、B移動介護が「地域生活支援事業」に移行されるなど、市町村格差が広がり、基盤整備もおろそかになってしまうこと、C「訓練等給付」は成果主義と結びつき、成果が出なかったら事業所への報酬を引き下げる方向が打ち出されていること、など積極面を打ち消してしまう、たくさんの問題点があります。

 これらの問題をなんら改善せずに、自立支援法は今年の4月1日より実施されました。私たちが懸念してきたとおり、通所施設をやめてしまう障害者が全国的に続出していること、事業所に対する報酬が削減され、しかも日割り計算になったため、これからの事業運営の見通しが立たなくなってきていること、などの問題が早くも明らかにされています。また、自立支援法による障害者と家族の負担増を苦に痛ましい事件が起きています。

 障害者およびその家族の生活状況は、一昨年の私たちの調査によって、生計中心者の年間収入が400万円未満という世帯が55.5%を占めていることが分かりました。また、年間収入が200万円未満という低収入世帯が2割を占めていることも分かりました。こうした傾向は新自由主義を根源とする「格差社会」が進めば進むほど、ますます障害者および家族の生活が厳しくなることは明らかです。

 こうした下での障害者自立支援法の施行に当たって負担軽減や福祉・医療サービスの充実で障害者とその家族の生活を維持向上させることが求められています。県内でも横浜や川崎など一部の自治体で減免制度が設けられ、全国的に見るとさらに広がっています。

ところが神奈川県では一切の減免制度の創設を拒み、もっぱら市町村の責任を強調しています。こうした姿勢を改め、県自ら障害者自立支援法による影響と実態をきちんと把握して、制度を一歩でも二歩でも改善する施策と見通しを明らかにすることが、「グランドデザイン」にもとめられています。

 

しかし「素案」には、自立支援法の問題は一切触れず、今後の障害福祉のあり方を、「かながわ障害福祉計画」の理念から、自立支援法をベースにしたものへ抜本的に変え、市町村にもそれを押し付ける狙いが見え隠れしています。

その内容は、

(1) 「当事者・支援者・行政が理念を共有し、その実現に向けて連携協力する」として、地域生活に移行するための当事者の努力も、支援者の任務も、行政の役割も並立的に規定されていて、県の役割や責任が曖昧にされています。

(2) 基本的な考え方を「ひとりひとりを大切にする」こととし、障害当事者に着目して「自己選択・自己決定」と共に、新たに「自己責任」を強調しています。しかし、自立支援法によって「権利としての福祉」から「買う福祉」に変質してしまったことから、お金のあるなしで自己選択の幅が決まり、お金のない者は自己責任で福祉や医療サービスの利用をあきらめざるを得ない事態になっています。こうしたことを無視して「自己責任」を押し付けるならば、地域生活どころか、障害者の人権を否定することになりかねません。

(3) 地域生活を支えるとして自助・共助・公助による支援を指していますが、第一義的な責任をどこが負うのか不明確です。

(4) 「地域生活支援のための社会資源の整備や財源確保の方向性を示す」とありますが、社会資源の整備を、規制緩和による多様なサービス提供主体の参入にもとめ、競争によってサービスの質が高まることを慎重な検討なしに受け入れています。こうした主張が破綻していることは、採算が取れない事業や場所からの事業所の撤退、報酬削減による訪問介護時間の削減と職員の非常勤化を見れば明らかです。

(5) 財源確保の方向性とは、「従来の施策は、地域生活を支える資源の不足を補うための個人給付に重点を置いていたが、今後は、個人を対象とする一律の現金給付を見直し、その財源を地域生活を支えるサービスの充実を図るための財源へと転換する」とし、「『生きにくさ』『暮らしにくさ』に注目し、重度重複など困難性の高い障害に重点的に給付を行う」とあります。

これでは、定率(応益)負担の導入によって、ますます地域生活を支えるための現金での個人給付への要求が高まっている(所得保障の充実をもとめる声は高い)にも関わらず、在宅重度障害者手当等を切り捨てる口実を与えるものです。また、個人給付の重点化で、同じ障害者でありながら、給付を受けられる人と受けられない人との間に格差が生まれるばかりか、従来から精神障害者へ対象拡大をという要求をも葬ってしまいます。結局のところ、財源確保の方向性とは、限られた財源という理由で、障害者と家族に我慢と自己責任を押し付ける内容でしかありません。県予算の使い道を根本的に改め、障害福祉の予算を増額することで、財源を確保すべきです。

(6) 今から31年前の1975年に国連総会で採択された「障害者の権利宣言」では、「障害者は特別な人間ではない。障害者は、その地域に住む同年齢の市民と同等の生活を営む権利を有しており、その権利を行使するために特別なケアが必要な人間である」と全世界に発信しました。すなわち「障害」を、その地域に住む同年齢の市民と同等の生活を営む権利を行使するために、特別のケアを要求しなければできない状態を指しています。

ところが「素案」では、「一人ひとりの日常生活や社会生活で直面する困難『生きにくさ、暮らしにくさ、育てにくさ』に着目する」とあり、これでは、「障害」を個人レベルに矮小化し、その人の経済的な条件や、生活環境によって「生きにくさ・暮らしにくさ、育てにくさ」がおきることになってしまいます。

個人、環境、社会とのかかわりで「障害」をとらえ、その「障害」のために、同じ地域に住む同年齢の人たちと同等の生活ができない状態に着目して、必要な支援体制を構築し、具体的な施策として実施することを基軸とすべきではないでしょうか。

したがって、「素案」に基づいて今後の障害者福祉を行うならば、障害者と家族の生活実態を正しく見ることは出来ず、県の施策が私たちの願いや要求を抑えつける方向に向かわざるを得ないでしょう。私たちは、以上の理由から、「素案」の内容に賛成できません。

 

私たちは、自立支援法に基づく制度を一歩でも二歩でも改善し、障害者の地域生活私怨システムを構築するために、県の責任で最低限これだけは検討してほしい項目を提案し、その具体化を図ることを要望します。

1、障害者自立支援法の改善を図るために

(1)  利用者負担増によるサービス利用の影響を調査把握し、応益(定率)負担および施設利用者の食費等の自己負担を減免する独自制度を実施すること。

(2)  自立支援医療における患者負担を軽減すること。また、診断書料を公費負担にし、更新時には、その旨を対象者に通知するよう、市町村に働きかけること。

(3)  国が示した新事業の基準・報酬単価は現行水準よりも低すぎます。新事業への移行については、障害者への現行のサービス水準を維持し、適切な支援が継続できるよう、現行の県単独助成事業を継続・拡充すること。

(4) サービス基盤の整備や、地域生活支援事業の自治体間格差を是正するため、障害者と関係者の意見を十分に聞いてガイドラインをつくると共に、財政支援を行うこと。

(5) 都道府県生活支援事業となる施策については、現行水準を維持し、利用者負担は無料または本人収入のみの応能負担とすること。

 

2、就学前の通園事業・児童デイサービスについて

(1) 相談機関の整備

(2) 母子通園事業での療育と保育の連携

(3) 児童でイサービスにおける療育機能の拡充

3、子育て支援

(1) 障害者家庭の子育てサポート

(2) 通園・通学のガイドヘルパー活用

(3) 年齢枠を17歳までとし、専門職員を配置した障害児学童支援事業の創設

4、居宅生活支援

(1) 見守り介護や、家族支援にホームヘルパーが利用できるように枠組みを見直すこと。

(2) 泊を伴う旅行、車両での外出支援、私的事由での社会参加などにガイドヘルパーが利用できるように枠組みを見直すこと。

(3) パーソナルアシスタント制度の創設

(4) 家族介護や、障害ゆえの特別な経費に対する経済的支援の拡充

(5) 家庭での医療的ケア制度の拡充

5、日中活動の場の整備

(1) 生命・生活の維持、集団生活の保障、エンパワーメントのための社会経験を広げるための機能を持つ事業を安定的に展開すること。

(2) ジョブコーチ、就労サポートセンターなど、雇用・就労対策の強化

6、居住支援の充実

(1) ケアホームやグループホームへのヘルパー利用の拡充

(2) 緊急じゃ経験拡大を図れる小規模入所施設の計画的整備

7、知的障害者等のコミュニケーション支援の拡充

(1) 社会的後見人制度の確立

(2) コンタクトパーソン制度の創設

(3) 手話通訳等のコミュニケーション支援者の専門性の確立

 

 

 

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